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この間、”Photographer’s eye”という良書を読んだおかげで、ちょっと構図のお勉強に勢いがついてしまいました。
タイトルにある
「構図がわかれば絵画がわかる」布施英利
を薦めてくれた人がいて、何気なく手にとって読んだら、いきなりハマってしまいました。
なにせ、序章で最初に眺める絵が
ヨハネス・フェルメール「デルフトの眺望」
これ、私が一番好きな西洋絵画です。わざわざこれが見たくて、仕事でヨーロッパに行った時にアムステルダムでトランジットするように旅程を組み、アムスから小一時間かけてハーグのマウリッツハイス美術館まで足を伸ばしたことがあるくらいです。
その次に題材にされるのが
アンリ・カルティエ・ブレッソンの、シルエットの男性が横たわるハシゴから水溜りに飛び降り着水する寸前の瞬間を写した、あの有名な1枚。
カメラいじって写真撮る人で、ブレッソン嫌いな人は、たぶん居ませんよね。私だって末席も末席ながら崇拝者の1人。
これで一挙に引き込まれました。
著者は東京藝大の美術解剖学の准教授だそうです。平易でありながら論理的、それでいて詩情溢れる語り口で、構図のなんたるかを解き明かしていきます。
「絵画」が題材なので、「写真」の構図のお話ではありませんが、相通じるところがあり、とにかく面白いので一気に読み通してしました。
例えば、こんな感じです。
(引用開始)
同じく絵の画面に引かれた垂直の線は、それが落下する液体でなくても、地球の重力を可視化した線であり、私たちは無意識にその線に秘められた重力を味わっているのです。ただの垂直の線ですが、それは地球の力を目に見えるようにし、感じたものなのです。
(引用終わり)
(引用開始)
光は、絵の中で、空間と奥行きを描き出す手段でもあります。そして、そこで描かれた空間と奥行きは、絵の画面の二次元に立ち現れた三次元空間に、構図を与えます。フェルメールが描く「兵士と笑う女」には、光によって空間が生まれ、構図が生まれます。そこで構図をつくる光は美しい。構図は、美しいのです。
(引用終わり)
なんか、写真の構図を考える時に、インスピレーション湧きそうな感じ、しませんか?
絵と画材・絵具ということについては、興味深い主張をされてます。
・絵画というのは、キャンバスに筆で描いた、絵の具の痕跡である。
・つまり、絵は(キャンバスと絵具からできている)モノに他ならない
・しかし、ただのモノではない。そこには光があり、色のついた光の輝きがある。
・絵に光が当たって反射し、絵が「見える」瞬間に、モノが別の世界になる。
・その魔術が絵画なのだ。
どうですか?
”光の芸術”である写真を趣味にしているような人には、なんかぞくぞくしてきませんか?
以前に読んだマイケル・フリーマンの”Photographer’s eye” が、「良い写真構図とは」という技術論に徹しているのに対し、本書は「(絵画という二次元芸術の)構図とか何か」という本質に対して、著者が真っ向から立ち向かい、結論を言い切る重厚な内容になっています。
私が写真を撮る時に、直接的に役立つことはさして多くないかもしれませんが、「構図とは何か」ということについて、正面から忘れがたい仮説をインプットしてくれる一冊です。
最後に、その強烈な仮説のサワリだけご紹介しておくことにします。
(引用開始)
構図にあるものは、たった一つです。私は、それをここまで書いてきました。
構図は宇宙を要約したものです。
(引用終わり)
これからファインダーを覗く時に、私は折に触れこの言葉を思い出すと思います。