キャパへの追走 読後感

沢木耕太郎さんの「キャパへの追走」という本を図書館で見かけて、最近めったに本を手に取らなくなった私にしては珍しくまじめに読んだので、読後感をメモしておきます。2015年の著作です。

同じ著者の「キャパの十字架」についての読後感をブログに書いたのは3年前でした。キャパの名を不朽のものにした有名な写真の真相に迫るこの「十字架」は、本書「追走」のスピンオフ的な産物であったと振り返られています。ご参考まで。

「崩れ落ちる兵士」「ノルマンディー」などの衝撃的な作品で知られる伝説的な戦場カメラマンであり、カルティエ=ブレッソンらと共に”マグナムフォト”の創始者となったロバート・キャパ。畏怖の念を抱きつつ、真実のキャパの姿を求めてその人生の軌跡と虚実を追う著者。

本書の趣向は、著名なキャパの作品を題材にして、”今(2010年頃)同じところに行って撮る”試みから、写真家キャパの来し方を振り返る、というものです。スペイン内戦の舞台からパリはじめ欧州各地、北米、日本、中国、ベトナムなどキャパ作品の舞台を巡り、「この写真の場所はどこだ?」と苦労しながら綴る著者のフォト・エッセイであり、変わった形の新たなキャパ伝とも言える作品になっています。

素直な感想ですが、面白かったです。時に衝撃的に残酷な事実を切り取るキャパ作品が題材ですが、この本はジャーナリスティックというよりは、文学作品の趣きが濃く時に抒情的で、わたしは楽しめました。

正直、”キャパ伝”に著者ほど思い入れる熱量のない私としては、謎に迫るという仕立てで無い分「キャパの十字架」ほどエキサイトはしませんでした。しかしキャパ作品と、数十年の時を隔てて著者にが撮ったスナップ作品を対比して並べていく紙面構成には引き込まれます。こういう「本歌取り」(いや、「本歌撮り」か)は面白いな、と素直に野次馬的に思います。

沢木さんほどの切れ味は毛頭望めませんが、好きな風景写真や風景画を題材に「私も撮ってみた」というのは、永世ビギナー写真愛好家としては面白い道楽になるかもしれません。

 

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