新作歌舞伎 FFX

新作歌舞伎「ファイナルファンタジーX」を観てきた話です。

『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』公式サイト
名作ゲーム×歌舞伎×圧巻の映像!「ファイナルファンタジー」シリーズ屈指の人気作『ファイナルファンタジーⅩ』が2023年春、歌舞伎になる!

この記事が載る頃には、もう千秋楽が迫っています。

ご承知のように、原作となっているのは、2001年に発売され大ヒットしたPlayStation2用のゲームソフトです。ファイナルファンタジーシリーズ10作目にあたるこのゲーム作品の大ファンである尾上菊之助さんが、強い情熱でもって企画をリードして実現した(そして主演も果たした)ということだそうです。

ファイナルファンタジー10(以下FFX)が好きなことにかけてはわたしも人後に落ちないつもりで、もともと歌舞伎にも少しだけ親しんでおりましたから、この興行は気にはなってました。おりましたが、なにせシリーズではじめてCVがついて、アニメーションが(当時としては)精細かつ躍動的で美しいことで知られる二次元作品を、シニア男性揃いの歌舞伎役者さんたちの衣装・メイクと立ち回りで演じるとなると、最悪の場合「目もあてられない大惨事」になっちゃたりしないだろうか・・・。

逡巡していて出遅れましたが、4月はじめのある日、怖いもの見たさ半分で思い切っていってきました、IHIステージアラウンド東京。当然劇場内は撮影ご法度なのですが、開演前と終演後のスクリーンの様子だけは可というお沙汰が出ていました。

劇場の外は歌舞伎らしいこんな風景も。

役者さんの厳めしい名前に、カタカナのゲームキャラクター役名の組み合わせがそこはかとなくユーモラス。

ポスターでは各キャラクターのビジュアルもどーんと公開されています。うーん、頑張っているのはわかるが、これを見る限りでは期待半分、心配半分・・・。

ところがところが、わたしの心配も怖いもの見たさも、開演からわずかの間に雲散霧消。すっかり舞台上のFFXワールドに惹き込まれて夢中になってしまいました。

凄いわ、歌舞伎役者の実力と歌舞伎演出の底力。

わたしが特に唸らされたのは、ヒロインが前編のクライマックスで見せる”異界送り”の舞い。創作アニメーションではなく、プロが鍛えた肉体と技術で魅せるリアルな舞踊で、しかも作品世界にフィットした美しい鎮魂の儀式として説得力を持っている、とにかく圧倒される数分間でした。

ヒロインの”ユウナ”を可憐に演じているのは中村米吉さん。もちろん男性の役者さんだということは皆わかりつつも、若い人の姿が目立つ観客は口々に「ユウナちゃん可愛い」「女形やばいな」と感銘をうけている様子でした。わたしも圧倒された。

あと、役者さんが皆、原作のCVにかなり声色やイントネーションを頑張って寄せてきておられて、台詞のかなりの部分を原作に忠実に再現しているせいもあって、まるでFFXのゲーム画面を眺めているかのような気分になりました。凄いプロ意識。

ていうか、久しぶりにFFXやりたくなったぞ、わたし。

IHIステージアラウンド東京は、円環状の舞台の真ん中で円形の客席が回転する「廻り舞台」ならぬ「廻り客席」の斬新な構造。歌舞伎座ではできないような映像・音響技術を駆使した演出も可能で、実際かなり面白い場面転換も見せてもらいましたが、ぎりぎりのところで伝統芸能・歌舞伎としての適切な抑制が効いていて安心して見ていることができました。

前編・後編あわせて7時間を超える長い芝居を、昼の12時から夜まで1日で通して演じるハードな興行でした。私は用事があって前編だけで退散せざるを得なかったのですが、事情が許せば後編も観ていたかった。

以上のような次第で、前編終了時にこのスクリーン画像を眺める頃には、どなたもすっかりそのキャラクターにしか見えなくなっておりました。

後編にしか出てこないキャラクターの姿もあって、ああ悔しいな。
夢中で楽しんでいたので、退屈とか疲労とか全く感じなかったので、あのまま後編も全然いけましたね。もっとも観る方はともかく、毎日演じる方は大変だと思いますが。

無事成功裡に千秋楽を迎えられることと確信しています。どこかのテレビ放送かせめて配信で、全編見られるようにしてくれないかな。

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