記事タイトルの「パリ郊外」でピンとくる人にはくる・・・。
私の愛するロベール・ドアノーの初期写真集「パリ郊外」から作品30点ほどが、オリジナルプリントで展示されるという夢のような写真展が、六本木のフジフイルムスクエアで開催中です。富士フイルムさんが太っ腹なところを見せてくれて、なんとこの貴重なイベントが入場無料!
なぜか最近まで気が付かずに見過ごしていました。なんという失態、よもやよもやです。
これは万難を排して観に行かねばならんでしょう。ていうかたいした万難も無いから、まだ暑さの残る9月下旬のとある日、速攻で行ってきました。
肝心のドアノー写真展の看板が反射で光っちゃいましたね。良く見えるようにパンフレットも載せておきましょう。
「パリ市庁舎前のキス」で有名なドアノーは、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ブラッサイらと並び20世紀のフランスを代表する写真家のひとりと称されますが、その経歴の少なくとも前半は華やかさとは無縁でした。
貧しいパリ南郊外に生まれ育ち、石板職人から写真に転じて生活手段として広告写真や産業写真を撮る道に進みましたが、職業カメラマンとしての生活は経済的にも精神的にも満たされたものではありませんでした。
仕事の傍らでライフワークとして撮り貯めたパリ郊外の写真が詩人サンドラールの後見で写真集として世に出て、ようやく写真家として歩む礎となったのは彼が37歳の時でした。
今回の展示会の題材は、その初期写真集「パリ郊外」です。ローライフレックスで丹念に撮り貯めたのは、故郷のパリ郊外の荒れた貧しい風景と、慎ましくもたくましくそこに生きる人々の姿。
被写体と少し距離をとる撮り方(性格的なもの、と本人は言う)であまり熱量を感じない淡々とした客観的な描写ながら、第三者的な醒めた視線というわけではなく、どこかユーモラスで共感や親しみを覚える写真になっています。
派手さは無いが、数点観ているうちにぐっと惹き込まれる、不思議な強さをもつ写真です。
今回の写真展でもうひとつ驚いたこと。
上記リンクとは違う本ですが、わたしは手元に図書印刷社 1992年刊の「パリ郊外」を古書で手に入れて持っていて、展示された作品のほとんどは既に知っています。
しかし本で眺めるのと、写真展でオリジナルプリントで印画紙に写しとられた作品を至近距離で観るのとでは、今はやりの言い方で言う「解像度」が、文字通り桁違いですね。100年前のパリ郊外の風景が実に鮮やかに眼前に迫ってきて、感慨もひとしおでした。プリント写真かっけえ!
あ、ひょっとして、富士フイルムさんが後押ししてくれるのはそういうわけか!なるほど!
この写真展は10月いっぱいで、11月からはドアノーの作品を別の角度から展示してくれるそうで、当然それも観に行かねばならんでしょう。